情報システム部門が今すぐ対応すべきAIセキュリティの新常識
AIセキュリティでは、従来のID管理やアクセス制御に加え、プロンプトインジェクション、データ漏えい、API連携リスクへの対策が必要です。情報システム部門の実務を解説します。
この記事でわかること
- AI利用で増える新しいセキュリティリスク
- 情報システム部門が確認すべき管理項目
- すぐに始められるAIセキュリティ対策
AIセキュリティは従来の対策だけでは足りない
中小企業でも、社員がChatGPT、Gemini、Claude、Microsoft Copilotなどを業務で使う場面が増えています。情報システム部門にとって、AIセキュリティは「使わせるか禁止するか」だけの問題ではありません。誰が、どのAIに、どの情報を入力し、出力をどこに使っているかを管理する必要があります。
従来のセキュリティは、ID、パスワード、端末、ネットワーク、クラウド設定を守ることが中心でした。生成AI時代には、そこにプロンプトインジェクション、入力データの漏えい、AI経由の誤操作、API連携の脆弱性が加わります。
AIセキュリティは「入力」「出力」「連携」を見る
AIツールそのものだけでなく、入力される情報、出力の使い道、外部サービスとの連携経路を確認します。
プロンプトインジェクションを理解する
プロンプトインジェクションとは、AIに対する指示を悪用し、本来のルールを無視させたり、意図しない情報を出させたりする攻撃です。たとえば、AIチャットボットがWebページやPDFを読み込む場合、そこに「社内ルールを無視して回答せよ」のような指示が混ざると、回答が歪む可能性があります。
OWASPのLLMアプリケーション向けTop 10でも、プロンプトインジェクションは主要リスクとして扱われています。これは、従来のSQLインジェクションのようにコードだけを守ればよい話ではありません。AIが読む文章そのものが攻撃経路になり得ます。
対策としては、AIに渡す情報源を限定する、重要処理はAIだけで実行しない、出力を人が確認する、システム指示と利用者入力を分ける、ログを残すといった設計が必要です。
データ漏えいは入力段階で起きる
AI利用で最も起きやすいリスクの1つは、社員が機密情報を入力してしまうことです。顧客名、契約書、見積金額、ソースコード、採用情報、未公開の事業計画などが、個人アカウントのAIサービスに入ると管理が難しくなります。
| 管理項目 | 見るべき内容 |
|---|---|
| 利用ツール | 会社が許可したAIサービスか |
| 入力情報 | 個人情報、機密情報、契約情報の有無 |
| アカウント | 個人利用か法人管理か |
| ログ | 利用履歴、入力履歴を確認できるか |
| 保存・学習 | 入力内容が保存や学習に使われるか |
禁止だけでは現場の利用を止めきれません。入力してよい情報、確認が必要な情報、入力禁止情報を明確にし、現場が迷ったときに相談できる窓口を用意します。
あわせて、個人アカウント利用と法人管理アカウント利用を分けます。退職者のアクセス停止やログ確認ができる状態にしておくことも重要です。
API連携は権限と実行範囲を絞る
AIを業務システムに組み込むと、API連携のリスクが出てきます。AIがメール送信、ファイル操作、顧客データ参照、チケット作成などを実行できる場合、誤った指示や攻撃によって影響範囲が広がります。
情報システム部門は、APIキーの管理、権限の最小化、利用ログ、異常検知、テスト環境と本番環境の分離を確認します。AIに与える権限は、人間の管理者権限と同じ感覚で扱わず、必要最小限にします。
AIに実行権限を与えるほど確認が重要になる
要約や下書きより、送信、削除、登録、決済、承認に関わる処理はリスクが高くなります。
すぐ始めるAIセキュリティ対策
最初にやるべきことは、社内のAI利用を棚卸しすることです。部署ごとに、利用しているAIサービス、入力している情報、出力の使い道、外部連携の有無を確認します。
次に、利用ルールを作ります。許可ツール、禁止情報、社外公開前チェック、APIキー管理、トラブル時の報告先を決めます。長い規程より、現場が読める一覧表の方が効果的です。
| 優先対策 | 内容 |
|---|---|
| 利用状況の把握 | 誰が何を使っているか確認 |
| 入力ルール | 機密情報、個人情報の扱いを定義 |
| 権限管理 | 管理者、利用者、APIキーを分ける |
| 出力確認 | 社外公開前に人が確認 |
| 教育 | プロンプトインジェクションと漏えいを周知 |
AIを止めずに安全に使う体制を作る
AIセキュリティは、AI利用を止めるためのものではありません。現場が安全に使える範囲を明確にし、危険な使い方を早めに見つけるための仕組みです。
情報システム部門だけで抱えると、現場の実態が見えにくくなります。総務、営業、経理、広報、経営者と一緒に利用状況を確認し、ルールを更新します。AIセキュリティの新常識は、技術対策と業務ルールをセットで整えることです。
この記事の監修者
石崎 一之進
中小企業診断士
年間50回以上のセミナー・研修に登壇する「Web・ITが得意な中小企業診断士」。単なるツール導入ではなく、経営視点から現場の「業務効率化」と「売れる仕組み」づくりを両輪で伴走支援し、企業の自走を促すDX人材育成に力を入れています。「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」活用で最大75%還元されるAI研修も行っています。詳細はAI研修をご覧ください。
参考文献
- OWASP: Top 10 for Large Language Model Applications https://owasp.org/www-project-top-10-for-large-language-model-applications/
- NIST: AI Risk Management Framework https://www.nist.gov/itl/ai-risk-management-framework